NHK出版 知るを楽しむ
8月 拝見・武士の家計簿/磯田道史(茨城大学准教授)
9月 江戸っ子に学ぶお金の使い方/石川英輔(作家)

 この本は前半と後半で著者もテーマも変わるのですが、今回ご紹介するのは後半で、江戸時代の行政システム(幕府政治)の様子から、江戸時代の日本人の行政と市民のありかたを見たものです。
 ちなみに前半は、武士が武士であるためにいかにお金をかけていたかが書かれていて、いまの公務員組織よりもかなり低コストで政治がなされていたことがわかって、これはこれでなかなか面白いものでした。

 最近、「住民参加」という言葉をよく聞きます。

 住民参加の目的の一つは、役所の会議室だけで行われたきた政策決定を、できる限り住民と一緒に決めていこうとするもの。もう一つは、行政職員だけでは多様化する住民のニーズに応えきれないので、行政の仕事をNPOや市民団体に移していこうとするもの、これら2つの理由が考えられます。

 特に問題と思うのは前者で、多くの場合(9割以上ではなかろうか)、行政から「住民参加をするので来て下さいね」と案内が出され、会議室にはペットボトルのお茶とともに議論の結論がきちんと準備されている、というのが実態だと思います。言い過ぎなのかもしれませんが、極端に言えばそうだと思います。

 これは本当にいかがなものかで、住民はあまり乗り気ではないまま会議に参加させられ、行政としても手間が増える。お互いにとってとても不幸せな会議です。住民が望んでないなら開催しなくても良いと思うのですが、これがなかなかうまくいかないようです。何かがおかしい。

 この本によると、江戸の市民にはほとんど税金が課せられず(!)、その代わり、現在役所が行っている治安維持などの行政サービスのほとんどを、江戸市民自身で行ったのだそうです。

NHK知るを楽しむ NHK教育テレビ 月~木曜日 午後10:25~10:50

江戸時代、税は田畑への課税(年貢)が中心で、今のような所得税や住民税はない。江戸の職人たちに恒常的に課される税はほとんどゼロであった。その代わり今のような行政サービスもほとんどない。信じがたいことだが、江戸八百八町を巡回するお巡りさんはたったの12人だったという。ごみ収集もなければ、学校もない。火事が多いというのに町の消防に公費はつかない。現代人が多額の税金を払って役人に任せている公共サービスを、江戸っ子は基本的にわずかな町会費と自分たちのボランティアで運営していた。金離れのよい江戸っ子が金を使わずに乗り切った治安、消防、教育などの仕組みと知恵に迫る。

 そこから思うに、住民が乗り気でないなら住民参加はやるべきでないように思います。その代わり税金を少し安くすべきですね。逆に、「近所に猫が多いから何とかして」というしょうもない要望に対しては、地域から余分に徴収すべきだと思います。

 江戸時代から明治・昭和・平成にかけて、日本における行政と市民のあり方180度変わってしまったことを思った一冊でした。


歴史に好奇心 2007年8-9月 (2007) (NHK知るを楽しむ/木)
磯田 道史 日本放送協会 日本放送出版協会
日本放送出版協会 (2007/07)
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